恋口の切りかた
唇が、重なりそうになった瞬間──



正体不明の熱に支配されたように陶然としていた頭が、


冷や水を浴びたように一気に冷えた。






円士郎の頭の向こう、

庭に面した渡り廊下に立って、

顎をこする手を止めてあんぐり口を開けたまま、


こちらに視線を送っていたのは──






──父上──!?






「いや……っ!!」



私は寸前で、思いきり円士郎を突き飛ばした。



円士郎がよろめいて、

「留玖……?」

傷ついた様子で呟いた。


「ち、違う……私は──」

私は、今の優しい円士郎の目に

言い訳するみたいに口にして、


円士郎に背を向けて走り出した。






父上に見られた──!

よりによってあんな場面を!


私と円士郎は、父上の目に、いったいどう映っただろう。




どうしよう、どうしよう……!?




父上のびっくりした表情がちらついて、

私は怖くて、怖くて……

全力で走って、自分の部屋に逃げ戻った。
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