恋口の切りかた
三、鯉口の切らせかた
【円】
次の日、俺は親父殿の部屋の前にいた。
「父上、円士郎です! お話が」
「入れ」と中から声がして、
襖を開けると、中には母上がいて、二人で何か話していた様子だった。
「ちょうど良い、儂もお前に聞きたいことがいくつかある」
いつになく難しい顔をして、親父殿はそんなことを言った。
……何だ?
母上が「では、私はこれで」と出て行こうとして、俺は
「いえ、母上もお聞き下さい」
と、それを止めた。
母上が親父殿の顔を見て、親父殿が無言で頷いた。
腰を浮かせていた母上が再び座り直す。
「ではまず、お前の話から聞こうか、円士郎」
親父殿はいつものようにごりごりとあごを擦りながら、
「お前がそのように改まった喋り方をするということは、また頼み事なのだろうがな」
いつもと違って、ニヤリとはしない真顔のままでそう言った。
「申せ」
親父殿のその態度に、何か圧力のようなものを覚えつつも──
俺は、口にした。