恋口の切りかた
「な──」

母上が色を失い、



親父殿は、深い深い溜息を吐き出して──

俺が思いもしなかった問いを口に上らせた。



「円士郎、お前……既に、留玖に手を出したのか?」


一瞬──何を言われたのかわからず、俺は言葉を発することができなかった。


「つまり、留玖を傷物にしたかと聞いている」


──キズモノ。

言い直した親父殿の質問を聞いて、すうっと頭から血の気が引いた。


「そッ──そんな真似、するワケねえだろうが!」

こっちは昨晩、口づけすら拒否られてしてねえっつうのに……留玖を犯したかだァ!?

「ふざけんな! 何でそうなるんだよ!」

怒りに任せてわめき散らし──

「そうか? あの様子ではそうなっててもおかしくないと思ったがな」

疑いの眼差しを変えぬまま親父殿がそう言ったので、ぎょっとした。


あの様子!?
あの様子って……何だ!?


何か──親父殿に気取られるようなものを見られたのか?


「お父上の前であんな態度を見せてみな、一発で怪しまれるぜ」


以前受けた忠告が耳の奥に蘇り、ヒヤリと心臓が冷たくなる。


だが俺は留玖を手籠めにしたりはしていない。
あらぬ疑いだった。

俺は居ずまいを正し、改めて強調した。

「──断じて! そのようなことは……!」

留玖のためにも、そこだけは必死に否定しておく。

親父殿はそれでもまだ疑っているのか、俺の目をしばらくじっと覗き込んでいたが、

「ふむ、まあ信じよう」

と頷いた。

「何と言っても、お前には儂の血が流れているからな。
最悪の可能性も捨てきれんと思ったまでだ」

そう言う親父殿の目は、相変わらず全然笑っていない。

「お前の話は、それだけか? ならば今度はこちらの話だ」




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