恋口の切りかた
──自害!?


寝耳に水だった。


「円士郎、お前……風佳殿に何をした?」


親父殿から訊かれて、


「なっ──何だそりゃ!?」


俺は思わずその場に立ち上がって叫んだ。

「何もしてねえよ! なんで風佳が自害しようとするんだ!」

親父殿は俺の様子をしばらく観察して、「座れ」と有無を言わさぬ強い口調で言った。


混乱しながら俺が再び腰を下ろすと、「念のために訊いただけだ」と言って親父殿は続けた。

「大河殿からは、お前との婚儀を嫌がってのことだと聞いている」


俺はさすがに言葉が出てこなかった。

昨日は、俺との婚儀が泣くほど嫌かと衝撃だったが──自害しようとするほどかよ。


「何がそんなに嫌なのかと大河殿が理由を尋ねても、お前と同じで
『先方には不服は何もない』と
そう答えが返ってきたそうでな」

親父殿は俺の顔をしげしげと眺めた。

「大河殿が言うには、風佳殿には他に好いた者がいる様子だったとのことだが──よもやお前の口からも似たような言葉を聞くとはな」


風佳に、好きな男がいた……?

じゃあ、俺との婚儀が嫌で泣いてたのもそのせいってことか?


信じられない気分だった。

あの世間知らずそうなぽーっとしたお嬢さんに、そんな相手がいたのも驚きだったし、
まさか、相手を思って自害までしようとするとは……。

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