恋口の切りかた
「留玖は儂の娘にした」

親父殿が言って、俺の背に緊張が走る。
膝の上についた手を、ぐっと拳にした。

「武家の婚姻は家と家とのもの。
円士郎、お前と留玖との縁組みはできん」

「留玖をもう一度、他家の養子にし直せばいい」

「……なに?」

親父殿を見据えて、俺は言った。


「留玖を結城家から他家に養女に出して、他家の娘にしてからなら、
俺の妻にすることができるハズだろ」


これが、前に遊水の言った「抜け道」だ。

この抜け道は、主に身分の違う者同士の場合に使うものだが……。


たとえば町人の娘を武家に嫁がせる時、
あるいは逆に、武家の娘を商家に嫁がせようという時、

もちろん身分の違う者の間で縁組みはできない。


しかし一度、

町娘を武家の養女として、
または武家の娘を町人の養女にして、

身分を変えてからならば
婚姻関係を結ぶことが可能なのだ。


この抜け道は結構よく使われている婚姻制度の盲点で──

俺が、義理の妹である留玖にもそれが応用できることに気づいたのは最近だった。



「留玖を大河家の養女にして、改めて大河家との縁組みをするならば──」


「この──痴れ者がッ!!」



親父殿に殴り飛ばされ、俺は畳の上を転がった。
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