恋口の切りかた
「お前は! 大河殿に、実の娘である風佳殿との縁組みを破談にした上で、留玖を妻にするため養女にしてほしいと、
そう頼むつもりかッ!」

口の中を切ったらしく、血の味がした。

「儂はこれまで、お前のやりたいようにさせてきたが──
それは、このような身勝手をまかり通そうとする者に育てるためではない!」

俺は身を起こした。

親父殿の言うことは──至極もっともな正論だった。


確かに俺が今口にしたのは、あまりに大河家を馬鹿にした非常識極まりない提案だったと思う。



それでも──



「だったら、他の家でもどこでもいい!

留玖を、結城家から別の家に養女に出して下さい!!」



俺は、引き下がることはできなかった。



「お前は──」

親父殿は言葉を失ったように、言いかけたセリフを途切れさせ、

「留玖は……お前の妹ではないか……!」

大きな溜息と共に吐き出すように──
嘆くかのように──言った。


「私は、もう留玖を自分の妹だとは思うことができません!」


親父殿を睨むように見上げたまま、胸の内をそう吐露した俺を見て、

母上が、手で口元を押さえた。


立ち上がっていた親父殿は、大きく首を振って腰を下ろし、

「留玖は、どう考えている?」


うっ──?

俺にとっては痛いところを突いてきた。


「留玖は、何も……私一人の勝手な思いです」

奥歯を噛みしめながら、正直に俺は言った。


親父殿は何度目かになる溜息を吐いた。

「留玖からも話を聞く。お前は部屋に戻って少し頭を冷やしておれ」
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