恋口の切りかた

 【円】

「ほほう、そりゃまた面白いことになってるねェ」

数日後、
また屋敷にひょっこり顔を出した遊水と町に向かい──

「それで、気マズくて──それからおつるぎ様とは一言も喋ってないってのかい?」

道すがら俺の話を聞いて、遊水は大笑いした。

うるせえな。
こっちにとっては笑い事じゃねえっつの。


「しかし、晴蔵様もなかなか粋な計らいをなさるじゃないか。
素晴らしい父君を持ったことに感謝するんだな、エンシロウサマ」

「……わかってるよ」

ニヤニヤ笑う白い顔を眺めて、俺は肩をすくめた。


風佳は、俺の元に嫁ぐなら死ぬと懐剣を振りかざして泣き叫んでいるのを周囲が取り押さえたのだそうで、
自害しようとしたと言っても、本人には特に怪我もなかったようだ。

ただ、相手の男が誰なのかに関しては、
父親の大河殿や母親がいくら尋ねても、頑として喋ろうとしないようで──

依然として不明なままだった。
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