恋口の切りかた
「いや、どうも火薬の量を間違えたようでな……」

こいつ、一向に道場に顔を出さないと思ったら……

快方に向かうどころか怪我増えてんじゃねーか?


鬼之介は、煤けた青白い顔でキョロキョロと辺りを見回し、

「今日は兄上だけか? おつるぎ様は一緒じゃないのか?」

脳天気にそんなことを言った。

──だから誰がテメエの兄上だ!


俺はげんなりして、肩越しに遊水を振り返った。

「……こんな阿呆、斬り捨ててどーすんだ?」

くっくっく……と遊水は肩を揺らして笑いを漏らし、

「悪いね、おつるぎ様じゃなくて」

俺の背後から歩み出て、鬼之介に冷笑を浴びせた。

サアア──ッと、
いつかのように、青白い鬼之介の顔から更に血の気が失せた。

「なッ……ななッ……」

鬼之介は口だけ動かして言葉にならない言葉を発し、

「円士郎、ききき貴様、こいつにボクの長屋を教えるとは──何の恨みだッ!?」

勢い良く後退し、戸口に張り付いてわめいた。

「しかも、き……斬り捨てるとは、聞き捨てならんぞォッ!?
け……消す気か!? ついにボクを消しに来たかッ!?」

ぶんぶか首を振って、エラい怯えようだ。


遊水はこいつの天敵かよ……。
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