恋口の切りかた
真っ青になって、しばらく唇をわななかせていた鬼之介は
にわかに表情に怒りを滲ませ、遊水を睨みつけた。

「ふざけるなッ! 何故ボクがそのような鬼畜生の行いを──!」

激昂した様子で叫び、足下に散乱していた武器の中から刀を拾い上げて、ふらつきながら柄に手をかけた。

「ボクとて武士のはしくれ。
こんな侮辱を受けて黙っている気はないぞ……!」

へえ? と、遊水は慌てる様子もなく鬼之介を眺めた。

「どうするってんで?」

緑色の輝きに射すくめられ、怯みつつも
鬼之介はカチリと鯉口を切って──

「いいいいくらあんたでも許さん!
如何なる理由あって、ボクにそのような疑いをかけたのか……納得行く説明がなければ──

──き、斬る!!」

手が震えていたりする。


どんだけ遊水が苦手なんだよ……。


だがまあ、いきなりあんまりな疑いをかけられた鬼之介の怒りはもっともだった。


「武士を愚弄したのだ!
か、覚悟はあるのだろうなッ」


まだ怪我が全快していないものの、鬼之介はいくつもの流派を渡り歩いた武芸者だ。


無礼討ちとばかりに今にも斬りかかりそうな達人を前に、

しかし遊水は落ち着き払った笑いを浮かべた。
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