恋口の切りかた
「き……貴様ァ──やっぱり、斬る!」

鬼之介が血色の悪い顔を赤く染めてわめき、刀を握る手に力を込めた。

「へえ? ここで抜きなさるかい?」

遊水がぐるりと長屋の中を見回して面白そうに言って、俺は少し興味をそそられた。


留玖から話を聞いただけで、
考えてみれば俺は、この男が実際に誰かと勝負する場面は一度も見ていない。

彼自身は前に、斬った張ったは不得手だなどと言っているが……



俺には謙遜にしか聞こえない、馬鹿馬鹿しい言葉だった。



話の通りならば、辻斬り犯の都築と「素手で」やり合える腕だ。


俺は確かに都築との真剣勝負に勝った。

が──

仮に獲物無しの素手であの免許皆伝の達人と相対していたならば、
おそらく数秒で斬り伏せられたのではないかと思う。


留玖の話では
圧され気味だったにせよ、その都築と丸腰でまともに戦っている。


少なくとも俺や留玖、鬼之介とは互角の腕──

──いや、



俺たちよりこいつのほうが強いかもな。



そんなことを考えながら、俺は一触即発の二人を止めるでもなく傍観を決め込んで──


長屋の戸が外から叩かれたのは、ちょうどこの時だった。
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