恋口の切りかた
「宮川様、宮川様」

戸を叩く音に重ねて、表からは澄んだ声が聞こえてきた。



む? と鬼之介が刀の柄から手を下ろして、

「お玉どのか?」

と、表に声をかけた。


おタマどの?


俺と遊水は長屋の入り口を振り返り──


「へえ──」
「こいつァ──」


カラリと開けられた戸口に、外の明るい光を背にして現れた女を見て

同時に声を出した。


「さっきは凄い音がしましたけれど、大丈夫ですか?」


はにかんだような笑みを鬼之介に向けているのは、年の頃なら二十歳前後か──

水墨画から抜け出てきたような、儚げな印象のほっそりした美人だった。


「ああ、発明に少し失敗したのだ。騒がせて申し訳ない」

鬼之介はそんな素っ気ない返事をして、

その美人は俺と遊水に気がついて「まあ」と言った。


「お友達がいらしてたのですね」


遊水が女に会釈し、俺は軽く手を挙げた。


「フン、誰が友達だ。ただの知り合いだ知り合い!」

鬼之介は不機嫌そうに言った。


女はそんな鬼之介を見てクスクス笑い、

「これはお邪魔してしまいました」などという言葉を残して去っていった。
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