恋口の切りかた
「おいおい、誰だよ今の美女は」

「こりゃァ鬼の字の旦那も隅に置けねえな」


女がいなくなった後、口々に言う俺たちに鬼之介はフン、と鼻を鳴らした。


「お玉殿は大家殿の娘だ。
ボクが怪我をして戻ってから、何かと世話を焼いてくれているだけだ」


ほほーう?

世話を焼いてくれている「だけ」……かよ。


「ありゃ人妻って感じだったねェ」

遊水が顎に手を持っていってニヤついた。


「いや……お玉殿は去年、流行り病で旦那さんを亡くされて……」

「美人後家さんときたかい!」


遊水は、被り手ぬぐいの額をぺしりと打った。


「こいつは益々もって隅に置けねえ。

──っと、そう言やァ何の話だったかな?」


とぼけた調子で白々しく言う遊水に、

完全に気勢を殺がれた鬼之介は鼻白みながら刀を置いた。


「どうしてボクが疑われたのか──納得の行く説明はあるのだろうな」


そんな二人の会話の流れに──


もう少しで、なかなか面白い勝負が見られそうだったのにな。


──チッ、と俺は小さく舌打ちをした。


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