恋口の切りかた
先を歩く円士郎の後ろを追いかけて、

商家の並ぶ通りを抜け、堀に架かる橋を渡ると町の喧噪が遠退き、
周囲は武家の屋敷が建つ区画になる。

「さっき冬馬が言ってたことだけどよ」

白壁の塀を横目に歩きながら、円士郎が口を開いた。


「あ、あれは冬馬の勘違いで──……」

私はもつれそうになる舌で必死に説明した。

話を聞くと、円士郎は、

「な、何だ、そうか」と納得してくれたように頷いて、私はホッとした。


武家屋敷の白い塀の間を歩いて、もう一つの堀に架かる橋に出る。

この橋の先は武家の中でも重臣の屋敷ばかりで、
結城家の屋敷があるのはその最奥の──お城に最も近い辺りだ。


円士郎と一緒にいると、
どうしてもあの夜
円士郎に抱きしめられた出来事が思い出されて

私は歩きながら、体が中から火照るような感じになる。

騒ぎ出す心臓の辺りを押さえていたら、


「怒ってるか」

橋を渡りながら円士郎が背中で訊いた。

「その、俺が無理矢理あんな真似しようとしちまったから……」


考えていたことが伝わったのかと思って、私は立ち止まりそうになる。


「わ、私が? 怒ってないよ」

ふるふる頭を左右に動かして、

「怒ってないけど……」


あのとき──父上に見られて突き飛ばしちゃったけど、

円士郎が私にしようとしたことは……
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