恋口の切りかた
ふわりと甘い香りがした。

堀の周りに植えられた樹木の枝には、
円士郎と出会った時に咲いていた私の一番好きな花が揺れていて、

弥生の午後の温かい日差しの下、風が優しい香りを運んでくる。


心臓が大きく脈打った。


「何だ、ひょっとしてそんなこと気にしてたのかよ」

薄紅色の花の下で、「安心しな」と円士郎は笑ったけど、



私の胸は、安心どころじゃなくて

何だか大騒ぎを始めてしまって──



どうして……エンは、



あのとき、私に「口づけ」なんかしようと──




「なんで、エンはあんなこと──しようとしたの?」




私は訊いてしまって、

「なんでって、わかんねーのか?」

円士郎に聞き返されて、焦った。
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