恋口の切りかた
「何故、面で顔を隠しているのか、奇妙な話ではあるが……
作るカラクリはまさに以前の人形斎そのままであるから、本人なのだろうと
人形斎を知る者はそう考えているようだな」

「今、そいつはどこにいる……?」

「芝居小屋だ」

と、宗助は言った。


「例の三人橋の近くにある、鈴乃森座。
そこに、人形斎と名乗る男が出入りしているという話がある」


三人橋のたもとの芝居小屋に出入りしている?

どこかで聞いた話だった。


「エン、これって昼間遊水さんが言ってた……」

「ああ、白輝血の兵五郎が出入りしてるって話と重なるな」


円士郎は頷いて、宗助に「お前は引き続き人形斎について調べてくれ」と言った。

承知した、と声がして──


「宗助、あの、私がここにいたことは他の人には……」


私は去ろうとしている気配に慌てて付け加えた。


小さく忍び笑うような息づかいの後、「ご心配なく」という返事があって、

今度こそ障子の向こうの気配は消えた。
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