恋口の切りかた
円士郎はそう言ったけれど──



人形の屋台なんて、



私にはそれはそれで
気持ち悪くて
不気味で、

やっぱり怖かった。


再び震えが背中から這い上ってきて、
私はぎゅっと目を閉じて
忘れよう、忘れようと念じた。


「意外だ」


ふいに、横から円士郎が可笑しそうに囁くのが聞こえて、

え? と思ったら、


「本っ当に怖がりなんだな」


布団の中から伸びてきた円士郎の腕が私の肩を抱いて、

私はころりんと転がされて、


目を開いたら、目の前に円士郎の胸があった。

少しはだけて、襟の所から鎖骨が見えている。


視線を少し動かすと、至近距離で円士郎と目が合う。


円士郎はそのまま片腕を私の肩に回して、私を抱いたままで、

私は逃げることもできなくて、

もう一回ぎゅっと目を瞑って、



固まっていたら、円士郎からお腹を震わせるような振動が伝わってきた。


「可愛いな。そんなカチコチになるなよ。俺も『今回は』何もしねえって」
< 841 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop