恋口の切りかた
笑われている。
からかわれている。


ムッとするところなのかもしれないけれど……

「可愛いな」という円士郎の言葉が頭の中をぐるぐる回る。

「今回は」? 今回はって……どういう意味?

そんなことを考えてしまう。


私は何だか平衡感覚がおかしくなったかのような、ふわふわした変な感じがして、


「まだ怖いか?」


優しい声で円士郎が尋ねた。
ちょっぴり意地悪そうだった、さっきまでの響きは消えていた。

目を開くと、円士郎は声と同じように優しい瞳で私を見つめていた。


激しく暴れて騒ぎ回っていた心臓が治まって、
代わりに温かくて柔らかい静寂が心の中に広がった。


急に、肩に回されている円士郎の腕の重みを感じた。

包み込まれるような安心感を覚える。


「ううん。もう、そんなに怖くない……気がする」


怖ず怖ずと口にすると、円士郎はそうかと微笑んで、大きな欠伸を一つした。


「じゃ、もう寝ようぜ」

「……うん」
< 842 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop