恋口の切りかた
円士郎の手が、私の髪の毛を撫でてくれた。


ふつりと、気泡のように

ずっと昔に、村で家族と暮らしていたときの記憶が浮かび上がった。


遠い過去になってしまったけれど。

こうして誰かに肩を抱かれて眠った温もりは、今も思い出の中に残っている。


「エン……」

「ん?」

円士郎の優しくて低い声の響きが、耳に心地よく届いて、

私は更なる安心感に包まれて、


「ありがとう」


夢うつつにそう口にした。

まどろみの中、
私は無意識に円士郎の着物をきゅっとつかんで、胸元に顔を埋めて、

一瞬、円士郎の体が強ばったような気がしたけれど、


そのまま幸せな眠りに落ちていった。
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