恋口の切りかた
私の頭の中で、「近づいてはいけない場所」の上位にその水神様の神社が順位づけられた。


「そのような話でしたらわたくしも聞いたことがございます」

続いて風佳までそんなことを言い出して、

「町外れのススキ野にある、古井戸の話なのですけれど」

古井戸!?
これも、その響きだけで怖い。

「そのススキ野のいずこにあるのかも定かではないのですが、何でもその井戸はこの世ならざる場所に通じているのだとか」

風佳は可愛らしい声で不気味な内容を語った。

「もしもその涸れ井戸の近くをうっかり知らずに通ってしまうと、この井戸に棄てられた人の骨が白い手を伸ばしてきて、この常世ではない隠り世に引きずり込まれてしまうのだそうです」


…………。

私は固まった。


「おい……大丈夫か、留玖?」

また卒倒でもするんじゃないかと心配したのか、円士郎が私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫じゃない……ふええ──」


……ススキ野なんか行かない!
金輪際近づかない!

私は固く誓った。


ここも「近づいてはいけない場所」に追加した。


「その話なら私も聞いたことがあるな」と言って、鳥英が遊水をちらりと見た。

「確か遊水から聞いたぞ」

「あら。わたくしもそう言えば金魚屋さんからお聞きした気がいたします」

風佳もそう言って、

「おや、そうでやしたか?
そいつはしまった。今夜にとっておけば良かったですねェ」

遊水が残念そうに苦笑いした。
< 935 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop