恋口の切りかた
「では私も、確かこの城下の七不思議だと聞いた話をいたしましょう」と冬馬が続けて口を開いた。


「小組の武家屋敷が建ち並ぶ界隈の外れに、昼間でも暗い竹林がありますよね。
その深い竹林の中には正体のわからない化け物が潜んでいて、通りかかった者を食い殺してしまうのだそうですよ」


あう。

どんどん近づけない場所が増えていくよ……。


「私もただ聞いただけならば、馬鹿馬鹿しい話だと思うところなのですが──五年前、実際にこの化け物に殺された者がいる。

それも刀を腰に帯びた武家の者です」


やっぱり刀なんかじゃ化け物には立ち向かえないということなんだ、と私は絶望的な気分になって──

ん? という感じで、冬馬の話を聞いていた円士郎が顔色を変えた。


「それが皆さんもご存じの、伊羽家の三兄弟の怪死事件です」


円士郎と鬼之介と遊水が、さっと視線を交わし合った。

──なんだろう?


「兄弟のうち二人は、最近巷を騒がせているのと同じように衆目の前で焼死したらしいのですが、残りの一人というのがこの竹林で喉笛を食いちぎられた無惨な姿で見つかったのだそうで……

死体に残された歯形は山犬のものでも熊のものでもなく、何に殺されたのか今でも謎のまま──竹林に潜む魔物の仕業だと囁かれているとのことです」


冬馬が話し終えると、何事か考え込んでいる様子だった円士郎が、

「そう言えば……五年前と違って最近の事件には、この竹林の化け物は絡んできてねえが──何か意味があるのか……?」

と呟いた。

「今まで気が行かなかったぜ。五年前に食い殺されて見つかった死体のほうは、結局どうやって殺されたもんだったのか、俺は聞いてねえ……」

円士郎は鬼之介と遊水を意味ありげな鋭い目で見て、独り言とも、彼らに向けた言葉とも受け取れる言葉をぶつぶつと零した。

二人も同じような目で何か思案しているようだった。


「は?」

冬馬が首を傾げた。

「いや、ですから今のはそれが竹林の化け物の仕業だという話だったのですが」

まったく、兄上は私の話を聞いてなかったのですかと溜息を吐いて、冬馬は首を一振りした。
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