恋口の切りかた
「何を言ってやがる? いくら俺でも人様の屋敷にこんなモノは貼るワケがねえだろうよ。

フダは円士郎様の仕業だろう? まったく面白いこと考えやがるぜ。
俺は鳥英の掛け軸をかける時に気づいたんで、効果的だと思う見せ方で乗ってやったまでだ」

「なに!? いや、俺は知らねえぞ」

「──なンだって?」


おいおい、と遊水は苦笑した。


「俺まで怖がらせてどうしようってんだ、おふざけはやめにしようぜ」

「あんたこそ、とぼけんなよ」

「…………」
「…………」


俺と遊水は顔を見合わせた。


「宗助、てめえか?」

俺は天井を睨み据えている忍の男ににじり寄って囁いた。

「馬鹿なことを仰る。それこそこのような無礼な所業、臣下である俺にできるはずもないだろうが」

ええ……?

「だったら……まさか冬馬、お前が貼ったのかよアレ」

冬馬に耳打ちすると、「はあ?」と冬馬は眉間に皺を作った。

「この私がこんな悪ふざけ、するとお思いですか」

「いや全然」


俺はぼう然と、天井を埋め尽くす「去ね」という文字を見上げた。



今日ここで怪談をやることを知ってたのはこいつらだけだし……

兼ねてから宗助に部屋に近づくなと言っていたという親父殿のいたずらか? いや、さすがの親父殿もこんなワケのわからん真似をするとは思えない。



それならば──




誰がやったんだこれ?


すう、と急に背筋が冷えた。
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