恋口の切りかた
【円】
今回俺がこの部屋を選んだのは、屋敷の一番奥の使われていない部屋だったからというだけで、
女の泣き声や読経が聞こえるなどといういわく付きだったとは露ほども知らず、
全くの偶然だったのだが──
とにかく奉公人を呼んでこの部屋について聞いてみることにした。
「ひぃいいい!?」
屋敷に詰めていた小者は、天井を見るなり悲鳴を上げた。
「だから『開かずの間』で怪談なんて、とんでもないと思ったんですよ!」
「開かずの間!?」
思わず目を剥く俺たち。
聞けば、この最奥の部屋は親父殿が「封印」するように言いつけており、掃除や手入れの者一人立ち入らない禁忌の部屋で、奉公人の間では「開かずの間」と呼び交わされているのだそうだ。
立ち入り禁止の理由を聞いても、誰一人として知らないとのことだった。
「しかし妙だな」
遊水が、小者から受け取った蝋燭を片手に部屋を調べながら言った。
「立ち入り禁止にしては、塵一つ落ちてねえし、手入れが行き届いてやがる。
まるで何者かが毎日掃除してるみてえだぜ?」
確かに……八畳ほどの部屋の中は埃っぽさもなく、俺もそう感じたから「開かずの間」だなどと思いもしなかった。
遊水はニィイ、と蝋燭の灯りの中で凄みのある笑いを形作って、
「まァ、その『何者か』が、果たして生きた人間なのかは……わからねェけどな」
意味深にそう言って、入り口の襖を指さした。
言われて俺たちがそこを見ると──