恋口の切りかた
襖のつなぎ目には『封』と書かれたフダが貼られており、ちぎれて二つに裂けている。


「他の襖にも全部にこいつが貼られていたぜ。
紙自体は古くなってるが、見たところちぎれた切れ口は真新しい。
つまり──」

俺は遊水の言わんとすることが理解できた。

「今夜俺たちが立ち入るまで、この部屋の出入り口は全て封鎖されて誰も出入りしてなかった、ってことかよ」

それなのに、手入れがなされていた……?

「いやいや、怪奇なこともあるもんだねェ」と遊水は相変わらずニヤニヤした。

こいつ……他人んちのことだと思って楽しんでやがるな。


「いやああああ!」

再び留玖が俺に抱きついてきた。

留玖は俺の胸をポカポカ殴りながら、

「ばか! エンのばかばか! なんでワザワザこんな部屋選ぶのっ」

「いや……。つうか、ンな部屋がうちの屋敷にあったなんて、俺もたった今まで全然知らなかったし……」

可愛い反応に思わず俺はにやけて──しかし、さすがに少し薄気味の悪さを感じていた。

宗助も顔をしかめながら、遊水が示した襖のフダを調べていた。


「こ、これは──明日にでも御祓いをしましょう」

震え上がった奉公人は真っ青な顔でそう提案した。


刻限は何刻くらいだろうか。

小者に聞くと、ちょうど九ツの鐘が鳴って、子三つ時だという答えが返ってきた。

怪異が起きるには頃合いの時分になっていたというわけである。


留玖と風佳がこんな部屋にはもう一秒たりともいたくないと言って、俺たちは怪談を切り上げ、移動することにした。


「ん?」

ぞろぞろと皆が移動する中、一人部屋の中に座したまま動かない鬼之介に目を留めて俺は首を傾げた。
< 944 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop