恋口の切りかた
何だろう、ひょっとして鳥英さんも怖くてどうしようって相談かな、

なんて思っていたら、


「その……やはり、女の身で怪談の後に夜道を歩くというのは……怖いと感じるのが普通なのだろうな」


鳥英は口ごもりながら、遊水のほうをチラチラ見てそんなことを言った。


「いや、こういう場合、まったく怯えもしない女というものは……やはり男としては可愛げがないものだろうな、と思ってね……。

その……どうやったら、怖がることができるのかな?」


有り得ない質問だった。


「知りませんっ」


私は衝撃を受けて、半泣きで答えた。


「何を言っているんですか! 無理矢理怖がろうとして怖がるなんて! 有り得ないです! 恐怖というのは心の底から自然に起きるものなんです! 起きないんですか!」

「ほ……ほう? ええっと……」

「鳥英さんの言葉は、恐怖という感情を馬鹿にしていますよっ! ふざけていますっ!」


ああ、私はこんなに怖くて心臓がどうにかなりそうだというのに、この人は何てことを訊いてくるのだろうと思った。

私の剣幕に、鳥英はたじろいだ。


「す……すまないな。
私は私で、結構必死で……真面目に質問したつもりだったのだが……」


鳥英は恨めしいことこの上ないセリフを吐いて、「おい、行くぜ」と声をかけてきた遊水と一緒に屋敷を後にしてしまった。


続いて冬馬と風佳も出発して──とうとう私と円士郎の順番が回ってきた。
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