恋口の切りかた
「留玖……」

円士郎が急に立ち止まって私の名前を口にして、私の顔を見つめて

「……お前なあ──」

提灯を手にしたままその場にうずくまったので、私はびっくりした。

「えっ? なに? どうしたの、エン」

「……夜道で男と二人っきりの時に、そういうセリフを口にするんじゃねーよ」

「へ?」

「っぶねー。今のは俺も、もう少しで自制心が飛ぶとこだったぞ……」

「え? え?」

円士郎は大きく溜息を吐いて立ち上がると、
提灯の橙色の明かりの中でいたずらっぽい目になって、私を軽く睨んだ。

「ったく、危うく襲いそうになるだろうが」

ボッ、という音が聞こえた気がして、私の首から上は火がついたみたいに熱くなった。

「な……なに言ってるの、エン……!?」

あたふたする私に昔から変わらないいじめっ子の視線を注いで、円士郎は笑って、

「嬉しいこと言ってくれてありがとな」

私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。

それから、

私の手に円士郎が指を絡めてきて、そのまま私の手を握って再び歩き出した。


それは、

幼い頃に私の手を引いてくれた時や、
風花の中で手を引いてくれた時とは違っていて、

私の指と指との間に円士郎の指を滑り込ませた手の繋ぎ方で──


触れ合っている場所から体中に熱が広がっていくような気がした。


「確かに、昔は怖い話なんてしなかったしな。だから一人で暗い道も平気だったのか?」

心臓がおかしくなりそうなくらいうるさく音を立てている私にはお構いなしの様子で、円士郎はそんなことを呟いて、

私が答えられずにいると

「まあ、これからは怖い時は俺がそばにいてやるよ」

ニヤッとしながら、そんなことを言って──



ど、どうしよう……どうしよう……



頭の中では火が渦を巻いているみたいで、私はますます何て答えたらいいのかわからなくなってしまって、うつむいたまま歩き続けた。

きっと真っ赤になってるんだろうな、と鏡を見なくてもわかって、

夜で良かったと心から思った。
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