恋口の切りかた
浄泉寺は、商家の並ぶ通りを抜け、畑の中に農家が点在する辺りにさしかかると見えてくる。

手入れをする人のいなくなった寺の周辺は、草木も伸び放題で藪のようになっていて、
いつも通りかかると、昼間でも薄暗く不気味な鳥の声が聞こえている。

円士郎の態度のせいで熱を帯びていた私の体の芯も、荒れ寺に近づくにつれ氷のように冷えてきた。



星明かりの下で、樹木に囲まれた寺はこんもりとした森のように黒々と佇んでいた。

ホウ、ホウ、と気味の悪いフクロウの声がする。

湿った生暖かい風が吹くたびに、ざわざわと葉擦れの音を立てて真っ黒な木々が化け物のように蠢く。

「やっぱりやめようよ……」

涙目になりながら私が言うと、
円士郎は「心配すんな」と笑って、


「何が起きても、俺は絶対にお前をおいて行ったりしねェよ」


そんな言葉を口にするものだから、


私の胸はまたどきどきし始めてしまって、

それが怖いからなのか、円士郎と一緒にいるからなのか、もう自分でもワケがわからなくなった。


なんだかヘンだよ、今夜の円士郎……!

それとも私がヘンなのかな。
円士郎の言葉や態度にイチイチどきんとしてしまう私が、おかしいのかな……。

だって、こうしていると今夜の円士郎は、いつもよりずっと頼りになるような気がして、言動も格好良く見えて──


円士郎に手を引っ張られて不気味な荒れ寺の境内に足を踏み入れ、生い茂った草をかき分けてガサガサ進んでいくと、

ほどなく屋根の傾いた本堂が見えてきた。


と思った瞬間、


視界の中を、ちろ、ちろ、と赤い光がよぎって、私は悲鳴を上げた。
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