恋口の切りかた
赤い光は、ゆらゆらと本堂の中を行ったり来たりして動いている。

みしみしと軋む階段を上り、薄く隙間の開いた観音開きの扉に俺は手をかけて力を込め──

「──っ」

留玖が、声にならない悲鳴を上げた。



本堂の中には、人間がいた。



橙の灯火に照らされ、古ぼけた袈裟が目に入る。


中にいたのは、七不思議の怪談どおり尼僧だった。

まさか死体ではないだろうが。


そんなことを考えていると、尼僧の首が動いてくるうりとこちらを向いた。



ぞくりとする。



血の気の感じられない真っ白な女の顔だった。

灯火を手にしてそこに立っていたのは、人形のように整った面立ちの比丘尼であった。


「これをお探しでしょう、肝試しのお侍さん」


美貌の尼僧は、鈴の鳴るような声でそう言って、俺たちに手にしたフダを見せた。


「しばらく前にここに来た二人連れが、後から来る者に渡してくれと、これを預けて行きましたよ」


遊水と鳥英のことだろう。


何だよ、普通の人間じゃねえか。

俺は力が抜けるのを感じながら、礼を言って尼僧からフダを一枚受け取った。


「ところで、あんたはこんな荒れ果てた寺で一人で何してるんだ?」

俺が気になっていたことを訪ねると──
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