恋口の切りかた
「おっと……気をつけないと目玉が落ちていけないわえ」


さすがに顔色を失った俺の前で、床をころころと転がる目玉を白い指がつまみ上げた。


「なッ──てめえ、そりゃ……」

「ああ。そうそう、貴方様は結城円士郎様でしょう」


肝を潰している俺に、己の片目を手にした尼僧は妖怪めいた微笑を見せた。


「仙太さんから、円士郎様に言づてがございます」

「俺に言づて……だと?」


仙太──って誰だ?

聞き覚えのない名前だった。
妖怪や死人の知り合いはいねえぞ。


「円士郎様が知りたがっていた蜃蛟の伝九郎についてわかったことがある。話は日を改めて町の居店で……と」

「なに!?」

俺は目の前の女を穴が空くほど眺めた。
実際、目玉の落ちた尼僧の顔には、灯火の中で黒々とした穴が空いているのだが。


尼僧はうふふ、と真っ赤な唇を吊り上げて笑いを零した。




「ああ、今は『遊水』と名乗っているのでしたかねえ。金髪緑眼の、異人の血を引く男からの言づてですよ」
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