恋口の切りかた
恐慌状態に陥っていた俺の頭が、急激に冷静さを取り戻した。

「てめえはいったい……!?」

尼僧の白い顔を睨みつけて俺は訊いて──


すう、と


女の白い指が俺の隣を指さした。


「よろしいのですか? お連れさん」


え?


言われて、留玖のほうを見れば、



──あれ!? いねえ!?



顔を上げると、
ガサゴソガサゴソ、草木をかき分ける音と、うわああーんという泣き声が暗闇の中を遠ざかって行くところだった。


ええ!?


絶対にお前をおいて行ったりしねェ、とか格好つけて言ってみたが、

──俺がおいてかれたッ!?


「留玖!」


俺は大慌てで、一目散に走っていく留玖の後を追いかけて


結局、今のあばら寺の尼僧が何者だったのかは謎のままになってしまった。
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