恋口の切りかた
円士郎の声は、耳に心地よくて、

円士郎の腕は、安心感があって、


恐怖で号泣して痙攣していた胸が、少しずつ落ち着いてきた。


同時に、自分の状況が理解できてきて──

「え……? えっ……」

私は慌てふためいて円士郎の腕から逃れて、彼から離れた。

「エン……?」

「おー。相変わらず可愛い反応だよな」と、円士郎は混乱している私を見て、またいたずらっぽく笑った。

「落ち着いたか?」

「う……うん」

私はこくりと頷いて、それから「エンのばか」と、円士郎を睨んだ。

心の中は全然落ち着いていなかった。

「ま、またこんな風に、私のことからかって……」

そうしたら、円士郎は道ばたに置いていた提灯を拾い上げて、少し寂しそうな顔をした。

「今のは、からかったワケじゃねェよ」

「だ、だって……」

「留玖」


円士郎が少し強い口調で私の名前を呼んで、私を真っ直ぐ見た。

私はまた、どきんとしてしまって……


「俺は、」


円士郎は何か言いかけて、それから言葉を選んでいるようにしばらく黙って、


「俺は、好きでもない女と、夜二人きりで無理を押してまで出歩こうとは思わないし、本当にそばにいたいと思う相手にしか『そばにいてやる』なんて言わねェよ」


真剣な瞳でそう言った。
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