恋口の切りかた
心臓が、とんでもない速さで鳴っていた。

円士郎は何も言わずに、私の反応を見るかのようにじっと視線を注いでいて、


「え……っと……」


私は困った。

困り果ててしまった。


円士郎は今、私に何を言ったのかな。
私は今、円士郎に何を言われたのかな。


彼に見つめられて、
顔が熱くて、
どうしたらいいのかわからない。


心の中には、すぐさま円士郎に返したい言葉があるような気がするのに、何かが──強烈にそれを押さえつけていた。


どうしよう。
どうしたら……

円士郎のばか。

こんな難題を吹っかけてくるなんて。


何にも言えないでいる私を眺めて、
円士郎は「悪かったな、留玖」と笑って、

私の手を引いて、歩き出した。


その目に、あの夜のように傷ついたような色が滲んでいた気がして、私は凄く焦った。

「エン」

「ん?」

「私のこと、嫌いになった?」

いつかも口にした問いしか出てこなかった私に、

円士郎は声を立てて笑って、いつかと同じ答えを繰り返した。

「言ったろ。俺は死ぬまでお前のことを嫌いになんかならねえよ」

「うん……」

私は円士郎に、思わず「ごめんなさい」と謝ってしまいそうになって、
けれどそれは円士郎を本当に決定的に傷つけることになるような気がして怖くて、何も言えなかった。
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