キラめく堕天使
絶美さと、風格を備えた容姿。

かたく目を閉じて、眠っている?

長い漆黒の髪を水の中で揺らめかせて。

耳元に、赤い大きな球形の石を何連にもつないだピアスが揺れている。

「誰?人間?」

ルナの瞳が哀しそうな色に沈む。

「魔王の一人」

沈んだ声。

けれど、天使の性質上、そのカナシミを持続できないのか、すぐに軽い口調に戻る。

「この美貌を大公爵アスタロト様に気に入られて、彼、ジュランは魔王の一人になったの。

けれど、それをやっかむ魔王は多くて。

とうとうその一人に捕らえられて、今、ここに閉じ込められているんだ」

ルナの目が、オレを見る。

その目は、期待を一杯に孕んでいて。

何でルナがオレに体をくれたのか分かった。

「オレに、助けろ、と?」

ルナは輝く笑顔で頷いた。

そうだった。

ルナは『おとされた』とか言ってたじゃないか。

それは、ただ、『落とされて』来たんじゃなくて『堕とされて』来たんだ。

つまり堕天。

天界かなんかから、追放されたのだ。

訳は、多分、今このガラスの海の底に沈む、綺麗な悪魔。

こういうのに、心惹かれることは、多分タブーなのだ。

その、禁をちゃっかり侵してしまったんだな。

この、天真爛漫さで。

オレは、深く、ため息をついた。



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