キラめく堕天使
もう一人の彼女も一緒になって、こっちに視線を送ってきた。

自己嫌悪のクセで、目をそらせたくなったが、窓に映った自分の姿を見て、思いとどまった。

今のオレは、綺麗なヤツなのだ。

オレは、心の中ではひきつりながら、ニッコリと微笑んだ。

女の子二人がキャーッと黄色い声を上げて足早に去っていく。

どういう反応なんだろう。

思っていると、逃げながら、一人の子が振り返って、オレに向かって手を振った。

なんだ。

ちょっとうれしくなる。

それから、この身体でいることの喜びをかみしめた。

「お待たせしました」

いつもより八割り増しくらいに愛想のいいお姉さんが、紅茶を運んできてくれた。

「ありがとう」

言うと、嬉しそうに微笑まれた。

くっきりとしたアイビーの柄が這いついているカップ。

それにに指を這わせ、両手に包み込む。

熱い。

いつもより、それを感じる。

元のオレよりも、皮膚が、薄いのかもしれない。

紅い表面に息を吹きかける。

そこに張り付くように漂っていた湯気が、飛んでいく。

薄いカップの感触も美味しい。

それを、唇と舌で愉しんで、ゆっくりと、紅茶を飲む。

熱さが流れ込んでゆく。

と、それが胃へたどりつかないうちに、オレはものすごい吐き気に襲われた。

何、だ?

自分が蒼ざめていくのがわかる。

ふらふらと立ちあがってトイレへ行く。

そして、吐いた。

オレは、そのまま座り込んで頭を抱えた。

紅茶だ。

紅茶を体が受け付けないんだ。

たぶん、この世界のもの全てを、オレのほうが拒絶してる。

オレは、綺麗ななりを手に入れた変わりに、人間じゃなくなってしまったのだ。

人間じゃない。
それって、

魔界に行くしかない、のか。



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