キラめく堕天使

とたん、ルナの悲鳴が聞こえた。

慌ててそこから出たけれど、ルナの姿はなかった。

もしかすると、オレの頭の中に直接響いてきたのかも。

オレは喫茶店を出た。

自分に他人の羨望の眼差しがまとわりつくのを、不思議な気持ちで受け止めながら。

けれど、オレは、行くところすらないのだ。



他に行くところがなくて、結局自分の部屋に、戻った。

ベッドに倒れ込んで、何か固いもので頭を打った。

「痛って」

呟いて、それを自分の頭の下から引っ張り出した。
 
シルバーのさや。
 
短剣だった。
 
ああ、ルナにもらったんだ。
 
それを持って立ち上がった。

ジュランを、さっき見た、美女の魔王を助けなけらばいけないのだった。

けれど、魔界に通じる穴は塞がってしまったし。
 
オレは、どうすればいいんだろう。
 
右手に短剣を持って、左手でそっと壁に触れた。

壁の、感触がなかった。

そのまま指先が壁の中に飲み込まれてゆく。

穴が塞がったように見えたのは、見せかけだけだったようだ。
 
穴は、まだそこにあった。

手が自分の視界から消えた。

そして腕も。

目を閉じて、体ごと、壁を通り抜けた。

さっきルナと来た時と同じ、青い空と青い水溜り。

魔界らしからぬ、綺麗な風景の中に、オレはいた。

そして、直後、落ちた。

氷のように貼っていたガラスが突然消えたのだ。

オレの体は、水の圧力を受けながら、下へ沈んでいった。

ごぼごぼと空気が口から漏れる。

そして、もがいていると、足先が水から出た。


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