キラめく堕天使
その扉は軽く開いていた。

中には、壁から生えたようなベッドがあるだけだ。

けれど、今はそこしか隠れる場所がなかった。

そっと扉を開いて中に入ると、ベッドに静かに横たわった。

イヤに固いベッドだ。

音は、近づいてきた。

分厚く黒い布を頭からすっぽりとかぶった人物が、鉄格子の向こう側に見えてきた。

ボロボロになっている布を半分床に這わせて、ずるずると引きずって歩いている。

その手元と思われる場所に円形の金具が持たれていて、無数の鍵がぶら下がっていた。

しゃらしゃらとなっているのは、床をこすっている、その鍵束だったようだ。

オレはベッドにうつぶせになったまま、自分の伸ばした腕の間から、それを見ていた。

「どうれ。天使は、どこだったかいな」

しゃがれた、老婆の声がした。
 
布の塊の中身は老婆らしい。
 
しかし、ここは多分、もう、魔界なのだ。

木よりも年老いた恐ろしげな老人かもしれない。

それとも、人間の姿ですらないのかも。

思ってオレは初めて、魔界にいることにぞっとした。

そんなのがきっとうじゃうじゃいる。

そして、自分もあの一員になってしまったのだ。

けど、じゃあ、もとの自分に戻るかと聞かれたら、答えは即答で「嫌」だ。
 
このままがいい。

それこそこれは『悪魔に魂を売っても欲しい体』だから。


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