キラめく堕天使
ルナは呟いた。

その、呟きを無視して近づく。

ルナが顔をそむける。

ああ。

オレを遠ざけたかった理由が分かった。
 
翼が、ない。

その代わりに、背中に大きく痛々しい、傷跡がある。
 
「酷い。誰がこんな」

背中からは、まだ鮮血が滴っている。

けど、どうしていいかわからない。

「へへへ。ひどいでしょ。でもこれ、悪魔にやられたとかじゃないんだよ。

むしったのは、大天使様。

天使のクセに平然とこういうコトをするんだから、コワいわ」

その目には、悔しさからか、痛みのせいか、涙が溜まっている。

「ルナ、手当てしなきゃ」

ルナは少し体を起こして、痛そうに表情を歪めた。

「あたしは平気だよ。

それより、あなたはジュランを助けて」

そんなことできるわけない。

知りもしない、助ける手だても分からないジュランのことなんかより、目の前の、ルナの方が大事だ。

「そのまま放っておいたら、血が一杯出て死んじゃうよ?」

天使が人間と一緒なのかがどうなのかは知らないけれど。

「手当てをして、ここから出なきゃ。ここから、出られる、かな?」

「出られなくはないけど」

ルナはまじまじとオレを見る。

「その後が問題かも。フィックスが外をウロウロしてると、他の魔族に狙われるんだよね」

軽い口調なのに、痛そうに、喘ぐように喋って、指を伸ばしてくる。

白い細い指先で、オレの顔に触れようと。

オレは、身を引いて逃げたくなった。

身に染み付いた劣等感からの反応。

でも、グッとこらえる。

嫌がってると、思われたくない。

ルナの冷たい指が頬に触れる。

ビクリとする。

自分でもおかしいくらい震え上がった。

ルナは、笑いをもらしながら、オレの頬にさらりと指をはわせる。

「フィックスって、この綺麗な見た目で、簡単に人を惑わせちゃうのよね」

そうだった。人間を食べるんだった。オレの体。

「餌として、人間がほしいだけなのに、おまけで魂も手に入れちゃう。

そんなフィックスが嫉妬されないわけないじゃない」





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