揺れる、山茶花
はなびら 参
* * *
みつばちだってさざんかだって。
頭の中をループし続ける言葉はまるで、小さい頃よく歌った童謡みたいだ。
「…?」
気が付いたら自室のベッドで眠っていた。
朦朧とする意識の中、鼻を掠めた甘い匂いに息を吐く。
また、魔のループだ。
ぐるぐるグルグル。
頭の中を駆け巡る、あの男の子の柔らかな声。
忘れられない。
(赤鼻…)
ポケットの中に手を突っ込むと、出掛ける前に掴んだ千円の成れの果て。
片道、二十○円。
往復、四二○円。
引く、千。
残り、。
(あ、まだ一回は行ける)
「……私のばかやろ」
馬鹿な事を考えている。
あの山茶花をまた見たいなんて、あの赤鼻にもう一度会ってみたいなんて。
原因は、小銭とはまた別のものがポケットに入ってたからだ。
山茶花の花弁。
今にも熟れて溶けてしまいそう。