揺れる、山茶花
はなびら 肆
そして私は、就職活動を一時中断した。
貯金もなにもないけれどそんな事より今は、大切に思えることがある。
なけなしの蓄えをもとに毎日毎日、山茶花に、赤鼻に会いに行く。
いざ冷静になれば、余りにも馬鹿げた話だけれど、まだ数度会っただけの、名前も知らない男と山茶花に、私は。
「赤鼻」
呼べば笑い掛けてくれる。
その柔らかな空気は、私が山茶花に会いに行く度にそこに在った。
必ず私より先に来ていて、私の期待を裏切らない。
可愛いえくぼが、私の今の楽しみだった。
毎日ここに来ているのかと問えば。
「毎日くれば、すれ違わなくて済むでしょう」
懐かれているのだろうか。
それとも、暇な大人が物珍しいのか。
考えても解らないし、確かめようとも思わない。
ただ赤鼻は、まるで空気の一部のように違和感なく、私にキスをした。
山茶花を食ませて、キスをして、笑う。
赤鼻のキスは、山茶花みたいな味がする。