揺れる、山茶花
「あんた、最近よく出掛けるわね」
赤鼻と逢瀬を重ね始めて一週間。
毎日毎日、面接を受けに行くでもなくふらりと出掛ける私をさすがに不審に思ったらしい。
母の探るような目。
今までは一瞬交わることすらいやだったのに、それを平然とかわす。
大人になれば、嘘もうまくなるものだ。
母親にそれが通じるか通じないかは別として。
私はありふれた嘘でその場を凌ぎ、赤鼻に会いに行こうと靴を突っかけた。
「あんた、ちょっとだけいい顔するようになったわ。世の中急いだってうまくいかないわよ。今の内にしっかり充電溜めときなさい」
出掛けに放たれた言葉に胸を打たれた。
あれほど煩わしかった母の言葉の数々。
半ニートの私を非難しているのだとばかり思っていたのに。