揺れる、山茶花
「大丈夫。大丈夫だよ」
情けなくて、いじらしくて。
ねぇ、赤鼻。
「赤鼻は優しい」
「赤鼻」
「あかはな」
貴方の体温が心地よすぎて、現実に戻りたくないと願う。
貴方を感じる為のこの体温だって、確固たる現実であると、私は知っているはずなのに。
甘い甘い期間。
社会のしがらみにもめげず、貯蓄のない自分に嫌気がさすこともない。
何も出来ない自分を嘆くことはしなくなったし、理不尽な社会に恨み辛みを吐き出すこともしなくなった。
それは明らかな赤鼻効果だったけれど、甘い蜜に浸かり続けていられるほど私は子供じゃなかったし、大人でもなかった。
気分も新たに、現実に向き合う準備が出来た。
どうしようもないことばかり考えて、出口のない迷路を自己陶酔的にさ迷うのもやめた。
新しく前へ進む新しい靴を、手に入れた。
───その靴の名は、赤鼻。
私を支え私を守り、前へ前へと促してくれる、私だけの靴。