揺れる、山茶花






「あ」

某株式会社からの手紙。
薄茶の封筒には、私の名前が少々乱雑に縦書きされている。

ビリビリと破った封筒の中身には、予想した通りの採用通知書。

真っ白の印刷用紙の中央。
明朝体で印刷された文章の中の、


「採用」

の文字。



その日はお赤飯を炊いた。

赤鼻。

私、頑張ったかもしれない。


合格通知が夜に届いた為、私は次の日の朝、赤鼻に報告しに行った。

まだ太陽が支配しきらない朝の空気が優しい。
生まれたての空気が、私を後押しする。


「赤鼻」

朝露に濡れた山茶花の隙間から、赤鼻が見える。

「お姉さん」

最初から私が来ることを知っていたかのように、赤鼻は驚きもせずに私を迎えた。

あの、甘い笑顔で。


「赤鼻!」

朝の挨拶もせずに、赤鼻の大きな胸に飛び込んだ。

暖かい。
赤鼻の長い腕が、私の頭をそっと包んでくれる。

優しい。
何も言わずに抱擁を求める私に、


「おめでとう」

一言。

とても柔らかな、マシュマロみたいな甘さで、優しく。






< 27 / 40 >

この作品をシェア

pagetop