揺れる、山茶花





なんで知ってるの?

目を丸くする私に。


「フフ」

ほらやっぱり、えくぼが可愛い。

「嬉しそうな顔して、いつもは絶対走らないのに走ってきたから。喜ぶこと、あったのかなって」

わざわざ教えに来てくれたの?嬉しい。

ちゅう。
音を立ててキスをする。
瞼の上に、私と一緒に、喜びを噛み締めてくれてるみたいに。

「赤鼻のお陰」

赤鼻が、私を支えてくれたから。

「ありがとう、赤鼻。ありがとう…」

ほろほろ。
甘い香りが私を擽る。

山茶花のにおい。
赤鼻のにおい。


「赤鼻…、ありがとう」

ほろほろほろほろ。
甘い香りと一緒に、私の涙もゆらゆら漏れた。


「もう…」

赤鼻が呆れてる。
困ったよう呟く癖に、その微笑みは全然、困ってなくて。

なんだか、赤鼻に会ったあの日のやるせなさを思い出した。

ほろほろ。
涙が一筋、軌跡を描く度に赤鼻がキスをする。

涙はしょっぱいはずなのに、まるで甘い蜂蜜みたいだ。


「赤鼻、赤鼻、あかはな」

うれしくてうれしくて。

どうしようもないくらい胸がいっぱいになって。

子供みたいに。
その言葉しか知らない子供みたいに、何度も何度も、繰り返す。





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