揺れる、山茶花





早朝五時過ぎ。
早起きのローカル線に揺られながら、私は目を閉じていた。

とくり、とくりと、いやにゆっくりと血液が循環している。

暖房が効かない車内はがら空きで、緩い朝日に満たされていた。

一駅、一駅と過ぎていく。
見慣れていた筈の景色はまるで、起きたての太陽に洗われるように鮮明。


「あの日」から、私の頭の中には赤鼻しか居ない。

握り潰した山茶花の感触は掌にこびりついていて、何度手を洗おうがそれが消えることはなかった。

赤鼻の柔らかな声がする。

赤鼻のキスが蘇る。

赤鼻の抱擁が、冬の棘から私を守る。


かたりかたりとゆっくりと、けれど確実に進む冷たい乗り物。



―――そうだ私は、決着を着けるために、今此処に居るのだ。

熱くなる眼球の奥が忌々しい。

あぁ、情けない女だ。


愛しい赤鼻。

私を愛した赤鼻。

山茶花が似合う、赤鼻。

山茶花みたいな赤鼻。



───本当は、気付いているのに。

それでも望みを捨てきれなくて、私は山茶花に逢いに行く。

かたりかたりと緩やかな振動が、私に痛みを促すのだ。





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