揺れる、山茶花
駅のホームに降りる。
スニーカーの底が鳴って、胸が痛い。
あの日と変わらない澄んだ空気が肺を灼いた。
視界には、やはりあの日と変わらない緑地公園。
植えられた欅の葉が、少し色褪せたくらいだろうか。
幼い陽光が私の頬を照らしている。
心臓が止まりそうなくらい跳ねている。
高揚に近い、けれど決して高揚ではないこの高鳴りは。
可愛い赤鼻。
私の大切な赤鼻。
私にキスをした赤鼻。
私の涙を舐めた赤鼻。
───赤鼻といつだって共に在った、あの、紅い山茶花の木。
欅の群を抜けた。
焦燥に駆られた足がもつれるように進む。
赤鼻、赤鼻、赤鼻。
心臓が泣いている。
───本当は、知っていたのかもしれない。
カサリ。
芝生が鳴る。
私の目には、枯れた山茶花。
「赤鼻…」
紅い色など見る影もない。
あれだけ美しく誇っていた山茶花は、すべての水分を奪われたかのように枯れ果てていた。
その痛々しい姿に、唇が震える。