揺れる、山茶花
「……あ、かはな」
自分で漏らした掠れた声に触発されて、息が詰まる。
赤鼻。
艶やかな朱は、私の視界に映らない。
手を伸ばす。
まるで、赤鼻の姿を映したような、その憐れな姿に。
伸ばした指先に、果肉を剥き出しにした枝が触れる。
「赤鼻…?」
声は、返らない。
冷ややかな感触が、悲しくて悲しくて。
―――ずっと待っていたのだろうか。
ずっと私を、見ていてくれたのだろうか。
山茶花を、私の指が愛撫する。
かさりかさり。
皮膚を撫でる感触は、赤鼻のあの柔らかな髪とは、全く違うものなのに。
「赤鼻…?」
どうしてこの山茶花が、赤鼻に見えるのだろう。
「あかはな、」
どうして、この山茶花がこんなにも愛しく感じるのか。
この山茶花が、赤鼻に見える。
ぼろぼろの枝に頬を寄せれば、痩せ衰えた枝先が私の皮膚を浅く裂いた。
「赤鼻…」
掠めた死にかけの葉が、パラパラと分解してスニーカーの紐に付着する。