揺れる、山茶花
「赤鼻…」
赤鼻が居ない。
死にかけた山茶花しか、居ない。
赤鼻は、居ない、のに。
「赤鼻…好き」
大好き。
まるで譫言のように山茶花に向けて繰り返す。
赤鼻、赤鼻、赤鼻…。
「ごめん、ね…」
あの柔らかな頬にキスするように。
山茶花に、口付けた。
―――赤鼻。
私の可愛い、赤鼻。
もう、会えないのだろう。
貴方は私に全てを与えて消えてしまったから。
その美しい命を、私なんかに捧げて、ひとり先に行ってしまったから。
「赤鼻、大好きよ…」
言えなかった言葉がある。
伝えたかった言葉が、ある。
貴方なしじゃ、もう生きていけないとさえ、考えていたのに。
あの柔らかな声が、
あの艶やかな唇が、
未だ私を、後押ししてくれる。
ありがとう、赤鼻。
「揺れる、山茶花」
貴方はいつの間にか透明な色を纏い私には見えなくなってしまったの。
手を伸ばせば、そこにいてくれることは解るのに。
ねぇ、山茶花が愛を導くように紅く熟れているよ。
終