揺れる、山茶花
* * *
電車に乗った。
やるせない気持ちのまま。
大の大人が、千円ぽっちを握り締めて。
誰も私を知らない世界へ。
(そんなとこ、ありはしないのに)
秋はじめの緩やかな空気が涙の痕をゆっくりと撫でていく。
カタンカタンカタン…。
平日のこんな時間帯だ。
その上、田舎行きのローカル線。
乗客の少ない一両編成が七つ目の駅で停まった時、私はなんとはなしに立ち上がり、電車を後にした。
無人駅。
古めかしい駅舎をくぐれば、すぐ目の前に公園が広がっていた。
単純に緑地公園と書かれた石碑を横目に、欅が並ぶ園内へと足を踏み入れる。
なんの香りだろうか。
少し甘い風が髪を申し訳程度に梳き、皮膚のひきつりがじくりと心臓に響いた。
紅い花がちらちらと視界を掠めていく。
―――山茶花…。
なんの花だろうかと近寄れば、ぼってりとした山茶花の花が鮮明になる。
(懐かしいな)
子供の頃、庭に植えてあった山茶花の、ころりと落ちた紅い花を足下に並べて遊んでいたっけ。
花屋さん、なんて友達と笑いながら、綺麗な山茶花を葉っぱと交換したりして。