体育館の扉
恋
―私は恋をしている。
1人でフルートを吹いていると、視線がどうしても見てしまう。
体育館の扉。
そこに彼はいる。ピンポン玉を打つ、懸命な背中。
私が練習している家庭科室の窓越しから見える。
―先輩だろうか。顔はまだ知らないのに。名前も知らないのに。
―僕は恋をした。
練習試合をしている時、毎日聞こえるフルートの音色。
休息時間はつい後ろを見てしまう。
体育館の扉。
その奥の家庭科室から聞こえている。
あの子はこちらに顔を向けている。
しかしよく見えない。後輩だろうか。名前も知らない。
―会ったことはあるのだろうか。すれ違いした事はあるのだろうか。
あの人は休息のたび体育館の扉に来る。
その時は正面を向いているのに、よく見えない。
叫んで気付かせる手もあるが、よくいる世間知らずと同じ行動なのでやめとこう。
―ただ、フルートの音色が届いていれば。聞こえていれば。
あの子は何を見ているだろうか。
そして、何を思って窓辺にいるのだろうか。
僕の存在を知っているだろうか。
次々と疑問が浮き上がる。
―ただ、あの子はずっとフルートを吹き続けている。休む事なく吹き続けている。
部活熱心なのだろうか。
・・・キーンコー・・・ン
部活終了のチャイムが響く。
「吹奏楽部解散」
先生がそう言うと、一階の職員室に戻って行く。
「今日日直でねー」
「アタシ明後日日直だー」
・・・皆の話声が増えてくる。
「宏奈」
友達が私を呼んでる。帰らなきゃ。
「うん。行こう」
私と友達は歩きだし、学校を後にする。
「明日って部活ないんだよね」
「え?そうなの?」
「そうだよ。だって水曜日じゃん」
そーだった。水曜日は部活ないんだ。
「そーだね」
「知らなかったら1人で吹いてるとこだったよ~?」
「あ・・・はは」
作り笑いで友達の話を聞く。