甘食系男子
「佐藤くん」
こう声をかけられた時にはもう遅かった。
嫌がる顔を無理矢理に上げると、目の前には生徒達から『姫』と呼ばれる女子生徒が、和紀から言わせればそれはもう100点満点の笑みで立っていた。
「……」
…いや。話し掛けられているのはオレじゃない。そうだ。きっと後ろの席の永井に向かって話してるんだ。うん。よし。食事を続けよう。
「佐藤くん」
違う違う。『佐藤くん』なんて言ってない。
きっと永井をながい…なごい…ながう…さとう…佐藤ってな具合に言い間違えたんだ。まぎわらしいもんな。『永井』と『佐藤』って。よし食事を…
「一くん」
一なんて言ってない。きっと永井の名前と言い間違えたんだ。そうだ。まぎわらしいもんな。佐藤一と永井……えっと…永井の下の名前なんだっけ?
ボソッ
「…は じ め」
そうそう。はじめ…って違う!
耳元で囁かれて反射的にのけ反る。
動物の本能として当然のことをしたまでだと言いたいけれど、目の前の女子生徒はそれが気にくわなかったらしく少し怪訝そうに眉をひそめた。