都の春
「私は、昨年の冬に…
賊に襲われました。
傷は未だに生々しく…
きっと、摂関家の姫君は私をお嫌いになるでしょう。
この傷故に私は…
妻は娶りません。」
養父上は…
無言だった。
賊に襲われたことは、養父上が自分の不覚と公言しており、きっと俺にそれを言われることは…
想像以上に辛いのだろう。
男御子に恵まれず、我が実父より私を引き受ける際は、『我が子以上に大切する』と養父上は仰って下さっていたらしい。
そのお言葉通り。。
春香とも実の兄妹以上に仲が良く、養母上も私を慈しんで下さった。
あの傷は…
普通の女性が見れば怖いのは当たり前だ。
春香ぐらいだった。
顔色一つ変えなかったのは…
養父上が口を開いた。
『お前が襲われた賊は春香を狙っていた。
分かっていると思うが、あれは普通の賊ではなかった。
私の厳重な警備すらごまかした…
あれに、問いただした所誰に雇われたか吐いた。
誰であったと思う?』
「分かりませぬ」
『七条家だよ。
春香、いや女御様を亡き者にしてほしいと、そう頼まれたらしい。
私はそれをネタに、七条家をそれとなく脅した。
そして、お前と一の君の婚約にこぎつけた…』
「なら私は尚更、一の君とは結婚出来ませぬ。
春香と私の心には深い傷がつきましたから」
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